竹之内裕一(ソリューションランド)
シンリンラボ 第37号(2026年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.37 (2026, Apr.)
解決志向で新しい選択肢を灯す:一人の挑戦者が示した教育の未来
加藤雅世子氏の著書『学校に行きづらい子どもたちのために中学卒業後に学べる高等専修学校をつくる──解決志向教育へのチャレンジ』は,既存の枠組みで救いきれない子どもたちのための学校設立を描く,熱い挑戦の記録です。本書は,全くの素人である一人の個人が,いかにして佐賀星生学園という高等専修学校を立ち上げ,成長させたかを克明に描き出しています。
読者はまず,学校設立の困難さに圧倒されます。物理的な校舎確保,法規制,膨大な事務,資金面など,山積する課題を想像していただきたいのです。当初は既存の建物を転用し,その後2022年には新校舎まで建設された過程には,数多くの苦悩と,それを乗り越える不断の努力が必要でした。
この壮大な事業を支えたのは,「困っている生徒に新しい選択肢を与えたい」という校長の明確な「解決像」でした。困難ではなく未来に焦点を当てる「解決志向アプローチ(SFA: Solution Focused Approach)」が運営の根幹であり,学園の存在自体がその生きたエビデンスです。SFAは教職員のコミュニケーションや指導など多岐にわたり応用され,その学びの源の一つには,加藤氏が実際に見学したアメリカのガーザ高校(Garza Independence High School)にあります。この実践力が学園の強さを生んでいるのです。
本書はまた,日本の既存の教育行政が抱える構造的な問題に対して,代替的な解決を提示しています。近年,文部科学省は「無理に登校させなくても良い」とする方針を打ち出しましたが,この状況を教育の「チェーン店」に例えるなら,本部が各店舗(学校)に対し「客(生徒)を呼び込む努力をしなくていい」と伝えているに等しく,現場の教師たちの意欲をそぐことになりかねません。本来,あるべき姿は,店の(学校の)業態を,客(生徒)のニーズに合わせて変革することであり,佐賀星生学園はその一つの具体的な解決策として提示されていると言っても良いでしょう。
そして,星生学園の成果は,生徒たちの姿によって最も雄弁に語られています。過去には2018年に「ソリューションランド」の大会が実施され,そこでの生徒のパフォーマンスは「We Are The Evidence」として,参加者に大きな感動をもたらしました。さらに,2025年にも「We Are The Evidence 2」というテーマで大会が開催されました。これは学園の教育が単なる一過的な対症療法ではなく,継続的に生徒の大きな成長を促している何よりの証明です。
この大きな達成を支えているのは,強い信念を貫く創設者である校長だけではありません。あらゆる職員の不断の努力と,生徒一人ひとりを大切にして支援し続ける温かい支えがあるからこそなのです。自らのことも隠さず赤裸々に?語っている本書を読むことで,その情熱と実践のリアリティを深く実感することができます。教育関係者はもちろん,わが子の幸せな成長を願う全ての人に,この「解決志向教育へのチャレンジ」の軌跡を一読することをお勧めいたします。
竹之内裕一(たけのうち・ゆういち)
ソリューションランド
資格:Master Solution-Focused Practitioner










