大矢寿美子(金沢工業大学)
シンリンラボ 第24号(2025年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.24 (2025, Mar.)
本書は,タイトルにある「描画連想法」という新しい描画療法の実践を,考案者でもある著者が自ら論じ,解説した一冊である。それぞれの章の内容は,主に2010年以降の『臨床描画研究』の論文を初出としていることがわかるが,文献リストによれば,2008年の『臨床描画研究』23号に論文が掲載された頃から「描画連想法」の名称とその実践内容が世に出たことが窺われる。以来,著者が臨床実践と研究と思索を重ねて結実したのが本書ということであろう。新しい描画療法の実践を生み出し,温め,鍛え,洗練させてきた足跡が本書の構成に生かされている。そしてこの本に出会うことは,読者が現在進行形の「描画連想法」の発展に立ち会うことでもあるが,そこで見守るだけでなく読者自身のケースを想起し,著者と議論してみたいという気持ちを芽生えさせる契機になると思われる。
ラカン派精神分析の素養も描画療法の豊富な経験もない筆者が本書に向きあったことで,自分にとっていくつかの出会いがあった。一つはやはり「描画連想法」がどのように行われるかを具体的に知ったことである。著者が要所要所で示す事例において,子どものクライエントと著者のやり取りを,紙が新しくなるたびに身を乗り出す感覚で読み進めていった。子どもが描きながら話し,治療者(著者)とのやりとりや紙の交換を重ねていく中で,今の描き手に必要なテーマが形を変えて象徴的に表現されている様子が新鮮で,描画と連想,描画と言葉が響きあっている印象をもったからである。
本書の中で「解釈の仕方・変化の見方」として①描画を「きく」ことを重要視する,②構造論的に描画をとらえる,この2点が重要なポイントとして論じられている。この2点も筆者にとっては描画の見方・描画の実施の仕方を再考する出会いであった。描画を通して語られる語りを「きく」ことは,あたり前に行われているようにも思われるが,ともすると形式的なものになっていることも多いのかもしれない。筆者自身,描き手の説明は聴くものの,描かれた描画が主役であり,描画そのものから治療者が何を感じ読み取るかが重要という思い込みがあったように思う。しかし夢からの連想をクライエントに尋ねるように,描いたものについて語るクライエントの言葉を大事に扱い,クライエントとの対話を進めることはとても治療的で自然なことである。そして語りを「きく」ことによって,「描画の個々の要素が意味を超えてどう結びついているかを理解すること」ができる。具体的に何が描かれたかという見方だけでなく,繰り返し表現されるイメージやテーマを捉え,それらの「関係性を読み取る」ことが可能となる。これまで発達的視点で描画の特徴を見ることが多かった筆者にとっては,臨床描画の実際を知る機会となった。
「描画連想法」の教えを乞うには,どうしたらよいのであろうか。日本描画テスト・描画療法学会第33回(2024年9月)では著者によるワークショップ「描画療法入門」が開講された。そこでは描画療法の基礎に加えて「描画連想法」の紹介と演習が含まれていたようである。今となっては遅いが,受講したかった。次の機会があればぜひ参加したいと思う。
大矢 寿美子(おおや・すみこ)
所属:金沢工業大学心理科学研究所
資格:公認心理師・臨床心理士
著書:『ナラティヴと心理アセスメント』(共著,創元社,2018)