書評:『読んで学ぶ・ワークで身につける カウンセラー・対人援助職のための面接法入門』(龍島秀広)|評者:狐塚貴博

狐塚貴博(名古屋大学)
シンリンラボ 第22号(2025年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.22 (2025, Jan.)

初冬の気配が空気に滲むのを肌で感じながら,この本を手にとった。途中,頁をめくる指先にかすかな冷たさを感じたものの,気にすることなく一気に読み終えた。それは単にコンパクトにまとめられた本だから,といわけではない。対人支援の必要にして不可欠な要因である信頼関係の形成をテーマに,実践に裏打ちされた提案と,それを得るための方法が,明確,且つ具体的に,そして平易ながらも力強い表現で端的に提案されているためである。次に,夜の静寂と相まってか,なぜかすがすがしい思いが湧き上がった。対人支援に関する本懐に思いを馳せてみると,すがすがしさを感じた理由に思いのほかすぐ辿り着くことができた。いわゆる定番のカウンセリング面接で使用される技法への違和感,少なくともその一端が私の中にも存在しているからであった。

本書は,この違和感に正面から向き合い,ナラティヴ・セラピーとソリューション・フォーカスト・アプローチの観点から,対人援助の基盤となる信頼関係を形成するための姿勢や技法のエッセンス,さらにそれらを身につけるためのワークが凝縮されている。ともすれば,このようなワークは着手するまでに腰が重くなりがちであり,実施中には自分を不自然に取り繕っているような感覚を伴うこともある。しかし,本書では心配をせずともテンポよく進められるような工夫が施されている。また,表面的なハウツーとしての姿勢や技法の提案にとどまらないよう,理論的な背景も併せて紹介している。

本書の主眼は,①知らない姿勢(“not knowing”),②共感的理解,③コンプリメント,④TST(Topic select Talk)の実装であり,これらは,近年の社会構成主義の観点やポストモダンに分類されるセラピーにおいて,特に重要なテーマである。筆者が主要な焦点としている部分ではないかもしれないが,面接時に配慮すべきノン・バーバルなコミュニケーションについての工夫も示されている。例えば,力の抜き方や腰の据え方,さらには腕組みを解く際に相手に伝わる意味等,具体的な行動の水準で説明されている点が興味深い。また,Q&Aのやりとりを通じて,著者の見解を深く知ることができ,その回答の的確さに自然と膝を打つ場面もあった。

本書は,いわゆる定番のカウンセリング面接で使用される技法や理論を理解しながらも,信頼関係の形成という同じ目的に到達するための別のルートを示すガイドのようなものだと改めて感じる。著者が示すそのルートは,人間の価値や強み,そして可能性を基盤とし,クライエントへの尊重と敬意に根ざした哲学を感じさせてくれる。総じて,本書は信頼関係の形成に対するアプローチの選択肢を広げてくれる点で,一読の価値があるといえる。

龍島秀広『読んで学ぶ・ワークで身につける カウンセラー・対人援助職のための面接法入門』

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狐塚貴博(こづか・たかひろ)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科
資格:公認心理師・臨床心理士

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