書評:『離婚・別居後の共同養育実践マニュアルー別れたふたりで子育てをするためのケーススタディ30』(しばはし聡子著,遠見書房)|評者:岡本吉生

岡本吉生(日本女子大学名誉教授)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)

本書は,「離婚後両親が子育てに関わる」共同養育(p.20)がどのように実現できるのかを,著者が代表を務める(社)りむすびでの実践経験をもとにまとめたものです。全体に,今,目の前で自分に語り掛けてくれているような気取らない口調で書かれており,離婚後の子どもの養育や親権の協議に悩む夫婦にとても参考になる良書です。

離婚に向かうあるいは離婚した夫婦がどうして一緒に子育てなどできるものかと思われる読者も多いかもしれませんが,実際には必ずしもそうではないことを30の具体的な事例(第6章)から理解できます。

前提問題として,共同養育がどうして必要とされるのかという疑問をもつ人も多いのではないかと思われますが,それについてはまず第8章のところで離婚家庭で育った子どものインタヴューを読んでください。必要性がよく実感できます。わずか2人の語りですが,どれも親の離婚を経験する子どもたちの心情をよく表しています。親への複雑な感情を秘めながら,「両親には争ってほしくないこと,両親が笑顔でいてくれること」がどれだけ子どもにとって救いとなるのかがわかります。夫として妻としてはいがみ合っても,父として母としては協力して子育てをしていくこと,その努力をしようとすることが離婚する親たちの責任なのだとわかります。

グッド・ディヴォース(Good Divorce)という言葉がありますが,それは離婚に際して夫婦がきちんと話し合い納得して別れることを意味します。離婚する夫婦の多くは,相手の非を責め,相手の顔などもう見たくもないという心理に駆られますが,そうしてバトルを繰り返して苦々しい別れをする夫婦というのは,自分たちの過去の結婚生活を否定的に捉え,離婚後も自分の人生を不幸だったと感じやすいのです。そして,子どもたちは親以上に葛藤やストレスを抱え込んでしまいます。

本書では,人生を左右する良いサイクルと悪いサイクルがわかりやすく図示されていますが(p.15),この図から,この良し悪しのサイクルの接点に位置するのが両親の歩み寄りです。そして,両親の歩み寄りによって実現されるのが子どものための共同養育です。

しかし,離婚する夫婦が歩み寄るには,それなりの努力が必要です。離婚するのだからケンカしなければいけないと信じ切っている夫婦でも,離婚は合意によって成立するのですから,どこかで歩み寄りが必要なのです。興味深いのは,歩み寄りを妥協としてとらえるのでなく,コミュニケーションの配慮としてとらえているのも本書の特徴です。争わない離婚をすることのいちばんのメリットは離婚後も親子の絆を保つことができるということです。共同養育は子どものためのものですが,それはよい関係を築き上げようとする両親の努力によって叶えられます。

本書は2024年5月15日に発刊となっていますが,ちょうどその2日後の同年5月17日に,民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)が国会で成立しました。共同親権が離婚後の親権者指定の選択肢になり,改正後2年以内に共同親権が実効化されることになりました。本書では,共同親権をハードな制度化であり,共同養育はあくまで心を中心としたハートの問題であると述べています(p.22)。今後,共同親権が離婚時の争点になったとき,共同養育という魂がなければ,共同親権は心のない空虚なものになるでしょう。離婚に直面する当事者だけでなく彼らをサポートする臨床家も,時機を得た本書によってたくさんのヒントを得ることでしょう。

『離婚・別居後の共同養育実践マニュアルー別れたふたりで子育てをするためのケーススタディ30』(しばはし聡子著,遠見書房)

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岡本吉生(おかもと・よしお)
日本女子大学名誉教授
資格:臨床心理士
趣味:ゴルフとギター

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