書評:『チーム学校で子どもとコミュニティを支える―教師とSCのための学校臨床のリアルと対応』(増田健太郎著/遠見書房刊)|評者:内田利広

内田利広(龍谷大学心理学部)
シンリンラボ 第17号(2024年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.17 (2024, Aug.)

本書は,小学校での教員の経験のある著者により書かれたものであり,まさに学校現場のリアル(現状)がありのままに書かれており,大変興味深く読ませていただいた。

「教師とSCのための学校臨床」とあるように,本書は教師とSCのために書かれたものである。その点からして,この本が従来の生徒指導のテキストとも,またスクールカウンセラー(以下SC)の活動の紹介とも異なり,教員側からの視点だけではなく,SCとしての視点も含めた複眼的な視点から学校現場の問題を検討しようというものであり,まさに「チーム学校」の姿勢の神髄を見ることができる。

第1部では,学校臨床の総論,教育相談,そしてSCの実際について書かれているが,特に興味を持ったのは,学級経営の視点や,教師のメンタルヘルスと不祥事など,これまでのSCの活動ではあまり扱われてこなかった内容について,かなり踏み込んだところまで書かれていることである。例えば,学級の荒れに対して懲戒・体罰と出席停止の概要の一覧が示されており,学級経営に苦しんでいる教師やその支援を行うSCにとっても,参考になる視点である。教師の不祥事については,体罰・わいせつ行為・個人情報流出といったように細かく整理され,その際の基準となる刑法,条例等が挙げられ,さらにその予防法としての心理教育プログラムも紹介されており,いざという時に心強い助言を得られる内容である。

SCの実際については,実践的な内容であり,特にSCの活動を振り返り,整理する意味で「SCセルフチェック25」は参考になるものである。またSCの意識改革の必要性も指摘されており,SC自身が「学校組織の中のカウンセラー」であるという認識がないことが,SCに対する誤解と不満につながっていると述べられている。これは,心理臨床のバックグラウンド,大学院養成の段階でのカリキュラムの未整備のせいでもあるという指摘は,大学で心理士等の養成を行っている評者にとっても,大いに考えさせられるところである。

SCの活動は,配置から30年近くたつが,まだその役割,機能は未確立なところがあり,発展途上であると考えられる。その中で,実際のSCは,どのようなことを行っているのかを,SCのエスノグラフィー調査から明らかにしようとしているのは,大変興味深かった。例えば,SCは一日の勤務で,どこで過ごしているか,また何をしているか,さらに誰と会っているのかを綿密に記録し,その割合が示されている。これは,今後のSCの機能を考える上で,貴重なデータであり,SCの活動を伝える際に,具体的にどのような活動をしているのですかと聞かれることがよくあるので,その際の具体的なデータとして,大変ありがたい資料である。さらに多くのSCにとっても,自らの活動を振り返り,自分はどこで,どのような職務をだれと行っているかを再確認する指標となると思われる。

第2部では,学校臨床の実際ということで,不登校,いじめ,気になる子ども,学級崩壊,保護者のクレーム,効果的な授業・研修会,についてまとめられている。いずれも,学校臨床のリアルとして,今まさに起こっている現象が多角的な視点から,検討されている。その中でも,今回はいじめと保護者のクレームについて評者は関心を持った。

いじめへの対応は,教師,SCともに難しい問題であり,特にその初期の対応の難しさがある。そこで,本書では,「じゃれあいといじめの境界線」として,事例をあげながら詳しく説明されており,非常に分かりやすいいじめへのプロセスが示されている。このように,いじめの初期は,時間の経過の中で少しずつ進行していく様子がよく分かり,未然防止の視点を得ることもできると考えられる。さらに,「保護者のクレーム」についても,教員にとっては,時間と労力がかかる課題であり,教師の休職や精神疾患を誘発する問題でもある。本書では,さまざまな事例やデータからクレームの内容を整理し,保護者からのクレームを「相談・要望・苦情・イチャモン」の4段階に分けて考えている。そしてクレーム対応を,学校における危機と位置づけ,「クレーム対応のポイント」「教職員間での振り返りの視点」「保護者の話の聴き方から教師間でのシェアリングまで」などが,一覧表としてまとめられている。これらは,大変参考になる資料であり,SCにとっても保護者のクレーム対応のリアルとして,是非心に留めておきたい内容である。

このように,本書は,学校臨床のリアルな姿が,多くのデータと事例を通して,詳細に描かれており,実践的であるだけに,教員やSCが困ったときに手に取って開いてみることで,多くのヒントを得ることができる書籍である。是非一読されてみることをお勧めする。

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内田利広(うちだ・としひろ)
龍谷大学心理学部
資格:公認心理師,臨床心理士
主なご著書:『母と娘の心理臨床』(金子書房),『スクールカウンセラーの第一歩』『フォーカシング指向心理療法の基礎』(以上,創元社)
趣味は,ガーデニング,山歩き

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