書評:『職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践――精神障害・発達障害のある人の就労を支える』(池田浩之・谷口敏淳 編著/遠見書房刊)|評者:井澤信三

井澤信三(兵庫教育大学)
シンリンラボ 第2号(2023年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.2 (2023, May)

本書『職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践』は,職業リハビリテーションにおける認知行動療法の実践的な活用について,認知行動療法の専門家が執筆にあたった画期的な本となっている。まず言えることは,全編を通して,理論と実践の双方がバランスよく論じられており,特に,事例を交えた詳細な解説は非常にわかりやすく,イメージを持ちやすい。その意味で,本書は読者にとって非常に有益である。

さらに,周知のとおり,発達障害のある子ども,あるいはそれが疑われる,発達特性(発達凸凹)のある子ども〜大人が注目されている。精神障害・発達障害(以下,発達障害等)のある人の支援からみた職業リハビリテーションと認知行動療法について,本書の意義を考えてみたい。

1.職業リハビリテーションと発達障害等

職業リハビリテーションは,本書にもあるように「就労相談」→「職業訓練」→「職場適応支援・マッチング」→「職場定着支援」といった流れとなる。また,教育,医療,福祉,産業といった包括的かつ継続的な支援の連携が強く求められる。職業リハビリテーションの時間軸上の流れにそった認知行動療法を活用した支援が,事例紹介を通して解説されていることが非常に意味あることと考える。

発達障害等のある若者を「はたらく」という視点から捉えてみると,「はたらく前の状態にある人」と出会うこともある。「はたらきたいけれども,今ははたらく状態にない人」や「なぜ人ははたらくのか,はたらかないといけないのか」に思い悩む人もいる。次に「はたらくことに向かっていく準備段階」がある。さらに「はたらくことを継続したい人」や「もうやめたい,違う仕事にかわりたい,続けたいがそれができない,一度やめたけどまたはたらきたい」等のような個人的または職業上の課題が生じてしまうこともある。

つまり,本書は,そのような発達障害等のある若者が現実的に直面するシーンごとに対応しており,支援者としてかかわる人の立場に応じた専門家の立ち位置が明確である,かつ大局的にその人の生き方を支えるつながりにも,本書は目を向けてくれている。

2.認知行動療法と発達障害等

認知行動療法のベースは「行動(障害)は個人と環境との相互作用」と考える枠組みにある。随伴性分析とはまさしくその関係を紐解くことにある。個人と環境との相互作用として捉えた場合,発達障害等のある人の困難は,個人レベルで考えられることだけではなく,職場・企業,さらには社会といった大きな意味での環境との関係から捉え直す必要がある。困難を大きくする環境側の阻害要因は「社会的障壁」といったことばで説明されるであろう。

本書は,発達障害等のある人の生き方を支えるために,個人レベル,職場レベル,社会レベルでの「障害のある人とその周囲の人とのコミュニケーション」に焦点を当てているところが興味深い。発達障害等のある若者への支援は個人レベルだけではすまないということである。そのことは,認知行動療法を実践する人を育てる人材育成も取り上げられていることや,機関間の連携(コミュニケーション)といった現実的な課題を取り上げていることからも了解でき,今後,さらに議論されるべき事柄であると考える。

+ 記事

井澤信三(いさわ・しんぞう)
兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻
資格:臨床心理士,特別支援教育士SV
主な著書:『発達障害のある人の問題となる行動を解決するための理論と実践』(あいり出版,2022)

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