中津大介(東京視覚障害者生活支援センター)
シンリンラボ 第42号(2026年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.42 (2026, Sep.)
1.視覚障害リハビリテーション
私の職場は,障害者総合支援法における自立訓練(機能訓練)と就労移行支援の多機能型事業所,全国的には珍しい視覚障害者のリハビリテーションの事業所である。
そもそも視覚障害とリハビリテーション,ピンとこない方も多いのではないだろうか?具体的には,白杖を用いた歩行訓練,音声読み上げソフトを用いたPC訓練,日常生活動作訓練,iPhoneを使って文書を読みあげたり,眩しさを抑える眼鏡を選ぶなど,総合的なトレーニングを行い,生活適応をあげていく。就労移行支援では,仕事に就くためのトレーニングを行う。「視覚障害にはリハビリテーションがある」とぜひ覚えてほしい。
2.初めてづくし
そんな職場に,大学院を卒業してすぐ入職した。初めて臨床の仕事をスタートする人が,初めて心理職を雇用する,一人職場で,その業界に心理職はほぼいないという,およそ心理職にとって難しいと言われる,初めてづくしの条件がすべて揃っている。自分で書いてみても「なぜ?」「大丈夫か?」と思うが,大学の学部の頃から神経心理学を学んでいて,神経や身体疾患のリハビリテーションに関心があったことが大きい。
とはいえ,臨床の仕事は順調なスタートを切ったとはいいがたい。福祉の領域では多かれ少なかれあることだが,大学院で学ぶ治療構造のはっきりした面接や支援ではない。支援者と利用者の距離は近く,誘導など身体接触もある。心理職として具体的に何をしたらいいのか,まったくわからなかった。
3.視覚障害リハビリテーション領域での心理の仕事
視覚に障害のある方は,目の障害や生活の困難さに悩み,不安に思っており,内容も現実的・具体的である。現状を正しく認識しているからこその悩みで,現実検討はしっかりされている。心理的なcareは必要かもしれないが,多くの方はcureが必要なのではない。ただ話を聞いてほしいという人は稀で,今後の生活をどうしたらいいか,具体的で役に立つ,人生の相談をしにやってくる。そこでは,大学院で学ぶようなパッシブな仕事の進め方は,はっきり言ってミスマッチだった。寄り添うとはどういうことか。相手の生活の困りごとにコミットするとは。どうにもならない不安から,少しくらい何とかなるかも?と思えるには。ここでは何が必要とされているのか。一つ一つ試してみては効果をみて,地道な修正を繰り返していった。探索的な実践をしては修正して,新たな知見を集積していくという,大学院で学んだ探索研究的な方法論が役に立った。現在は,「ストレスケア」を中核に,生活支援の中に心理支援を組み込んでサポートを行っている。
4.視覚障害領域で働く心理職の魅力
視覚障害は「情報障害」ともよばれ,日常生活上のあらゆる情報処理が影響を受ける。当初は視覚障害の問題に圧倒されてしまう。しかし,一人として同じ視覚障害者はいない。その人らしい人生を歩むことをサポートするという意味では,領域の違いは些細なことで,心理職としての本質は同じであることを気づかされる。
今は面接の仕事よりも,iPhoneの使用方法の習得や社会福祉制度の手続きの支援,ケースワークの方がはるかに多い。仕事の外観として,およそ心理士らしくはない。でもアセスメントの結果,その方法論を取ることがストレスケアに最適だと説明ができるならば,立派な心理の仕事であろう。〜療法だとかの心理職っぽい技法は捨てても,心理職としてのその場に合わせた実践は捨てない。初めてづくしというのも悪いものではない。何しろ,「前例がない」といわれても,「前例なんてあったためしないわ」と笑い飛ばすことができる。やると決めてしまえば,あとは存外,気が楽なものだ。
中津大介(なかつ・だいすけ)
東京視覚障害者生活支援センター
資格:公認心理師,臨床心理士,相談支援専門員
主な著書:
『福祉心理学:福祉分野での心理職の役割(第7章 2 視覚障害児・者への心理支援)』(分担執筆,ミネルヴァ書房,2020)
『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】(第2部 6 視覚障害がある場合)』(分担執筆,金子書房,2023)











