松本 学(東北大学病院形成外科心理外来・共愛学園前橋国際大学)
シンリンラボ 第38号(2026年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.38 (2026, May.)
1.形成外科心理外来と口唇口蓋裂治療チーム
私は2014年から東北大学病院形成外科心理外来において,治療チームの心理士として口唇口蓋裂児とその家族への心理社会的支援に従事している。口唇口蓋裂は約500人に1人の確率で出生する代表的な先天性疾患であり,授乳や嚥下,構音の障害とともに,顔面に可視的な変形を伴う注1)のが特徴である。
当院の場合,生後3ヶ月の口唇裂初回手術から始まり,その後も複数回の手術,歯列矯正を中心とした口腔管理,言語治療などの長期にわたる計画的治療を要する。また,日本口蓋裂学会の全国調査(髙木ほか,2022)によれば,外表に変化のある口唇裂を含む症型では約半数が出生前診断を受けており,そのため多くの家族は出産前から疾患告知や治療,育児に関わる強い不安を抱えているのが現状である。こうした背景から,当心理外来では産前産後という極めて早期から家族と関わりを持ち,継続的な支援を行っている。なお,当院の治療チームは心理士の他に,形成外科医,看護師,矯正歯科医,小児歯科医,耳鼻科医,言語聴覚士,ソーシャルワーカーによって構成されており,月1回のカンファレンスを通じて密接に情報共有を行いながら,チーム全体で患児と家族を支える体制を構築している。
注1)英国の調査(Changing Faces, 2017)によれば,口唇口蓋裂に限らず顔面に何らかの変形を持つ当事者は全人口の約111人に1人にのぼると推計されている。これはおよそ1%弱という数字であり,近年の認知拡大によって有病率が上昇する以前から,ASDの目安として広く知られてきた出現頻度(約1%)に近い。外見をめぐる課題が,決して稀なものではなく,私たちの日常に非常に身近なテーマであることを示している。
2.「顔を育てる支援」の理念
こうした長期的な関わりの中で,私が実践している支援を「顔を育てる」と呼んでいる。これは単に外見を外科的に整え,「普通」に近づけることを目指すものではない。むしろ,本人が自らの顔をアイデンティティの一部として位置づけ,葛藤を抱えながらも自らの外見と折り合いをつけ,社会の中で主体的に生きる力を育む伴走プロセスを指している。具体的な支援は治療と並行して出生前後から始まり,成人期まで継続される。その過程では,初回手術や園・学校への参入,思春期のアイデンティティ形成といったライフステージごとに異なる心理社会的課題が生じる(松本,2025)。包括的なレビュー(Stock&Feragen, 2016)によれば,多くの当事者は良好に適応している一方で,一部の層が外見満足度や対人経験において困難を感じることが指摘されている。外見や対人関係における困難はライフステージの節目に顕在化することが多く,またどの当事者にリスクが生じるかは事前に予測が困難であるため,発達早期から継続的に心理職が治療チームの一員として関わり,問題の発生を未然に防ぐ予防的介入を行うことが重要であると考えられる。
また,こうした包括的支援は多職種チームだからこそ実現できるものである。例えば,医師は医学的な説明と手術を担い,歯科医は歯列矯正や長期にわたる口腔管理を担当する。看護師は外来から入院まで一貫して支える包括的な健康管理と養育支援を,言語聴覚士は言語発達への専門的介入を,ソーシャルワーカーは生活・福祉面での相談支援を担う。心理職はそのような多角的な支援の中で,子どもの心の育ちと家族の心理的負担に寄り添い,当事者の主観的体験を丁寧に聴き取る役割を担っている。各専門職が月1回のカンファレンスを通じて情報を共有し,異なる視点を持ち寄りながら一貫した方針のもとで同じ家族を支えることで,初めて切れ目のない支援が可能になるのである。
3.ライフステージに合わせた継続的支援の実際
1)出産前後から乳幼児期における基盤づくり
出産前後において,両親は予期しなかった疾患や見た目の違いに直面し,戸惑いやショックを経験することが少なくない。そのため,この時期の支援は両親の感情を丁寧に受け止めつつ,彼らが本来持っている育児の力を引き出すことに重点を置いている。Speltzら(1997)によるアタッチメントの早期予測因子に関する研究では,疾患そのものが直ちに不確実なアタッチメントを導くわけではなく,むしろ母親の心理的苦痛や社会的サポートの欠如といった要因が影響を及ぼすことが示されている。したがって,心理職が母親の心理的苦痛をアセスメントしながら丁寧にケアし,その軽減を図るとともに,術後の子どもとの良好なアタッチメント形成を支えることが,その後,患児が他者と安定的な対人関係形成を育む上での重要な土台となると考えている。
2)幼児期から学童期における社会的適応
その後,幼児期(3,4,5歳頃)に入ると,子どもは自他の見た目の違いを徐々に自覚し始める(松本,2009)。この際,周囲からの素直な問いかけによって本人や家族が傷つき,孤立することを防がなければならない。そこで当外来では,出生後早い段階から心理教育を開始している。具体的には,治療の歩みを記録した写真等を用い,本人が自身の疾患を頑張ってきた証として肯定的に理解できるよう準備を進める。加えて,園や学校側に対しても,家族を通じて適切な情報共有を行い,教職員による見守り・支援体制を整える。場合によっては,病院心理士が直接園や学校と連携を図ることもある。
3)青年期以降のアイデンティティ確立と親密性
思春期を迎えると,外見への関心はさらに高まり,自身の疾患の特徴を改めて強く意識するようになる。さらに青年期から成人期へと向かう中で,進学や就労といった「社会的な自立」だけでなく,恋愛や結婚といった「親密性の獲得」が新たな発達課題として浮上してくる。実際に,成人期の当事者を対象とした調査(Ramstad et al., 1995)によれば,就労状況などは良好である反面,婚姻率が一般群より低く,初婚年齢が遅い傾向にあると報告されており,文化的背景の違いはあるものの,こうした傾向は現在の日本においても臨床的に観察される。その背景には,外見に対する根強い不安や,親密な関係において拒絶されることへの過度な恐れがあると考えられる。そのため私たちは,進学や就職といった,自身の外見や疾患について他者に説明・開示する場面への支援にとどまらず,恋愛などより深い対人関係において生じる葛藤にも寄り添い,その対処のあり方を本人とともに模索していく。しかし,このようないわば「長期的な伴走」は,常に密接な介入を続けることではない。定期的な受診の折に少し近況を語り合えたり,本人がふと「話したい」と思い立った時にいつでも相談できるような,細くとも途切れない「緩やかな関係性」を保つことが重要である。付かず離れずの適度な距離感で見守り続けることこそが,結果として当事者が社会の中で主体的に生きていく力を育む基盤となるのである。
4.成長の軌跡を見守る喜びと主観的体験へのまなざし
この臨床現場における最大の魅力は,一人の人間が赤ちゃんの頃から大人へと成長していく歴史に立ち会える点にある。生後間もない時期から思春期の葛藤を経て自立していく過程で,本人と家族がさまざまな困難を乗り越える姿を見守ることは,心理職として大きな喜びである。また,早期からの介入によって,深刻な心理的問題が生じる前に対処できるという予防的効果を実感している。近年の口唇口蓋裂医療においては,患者の主観をめぐる大きなパラダイムシフトが起きている。医師による客観的な治癒判定だけでなく,当事者自身の主観的な納得感やQOLが治療の両輪として重視されるようになり,当事者の主観を計測する日本語版の評価尺度(患者報告アウトカム)も臨床現場に導入されつつある(彦坂ほか,2021)。
この変化は,我々心理職がこれまで面接室の中で大切に耳を傾けてきた当事者の主観的な体験が,医療チーム全体の共通言語として明確に位置づけられたことを意味する。客観的な治療結果と主観的な満足感は必ずしも一致しない。だからこそ,評価尺度の数値だけでは測りきれない本人の葛藤や揺らぎに丁寧に寄り添い,ともに意味づけを探求していく心理職の専門性が求められているのである。
本稿で改めて強調したいのは,「顔を育てる」という理念は,決して顔の否定や修正から出発するのではなく,その人自身が持つ固有の魅力に気づき,それを大切に育んでいくことを目的としている点である。本人や家族が自分らしさを感じながら生きていけるよう,心理職がチームの要となって支え続けることが何よりも重要であると考える。
5.展望と社会へのメッセージ
口唇口蓋裂の支援を通じ,医療現場における心理職の役割の大きさを日々痛感している。これまで述べてきたように,本人とともに「顔を育てる」という私たちの実践は,単に個人の外見や心理を整えることにとどまらず,それを受け止める社会の側の「眼差し」を養っていく作業でもある。こうした臨床での知見が他の疾患領域にも波及し,誰もがその人らしさを大切にできる社会につながることを願っている。冒頭で触れた英国のChanging Facesや,Face Equality International(FEI)注1)が提唱するように,外見の不平等に左右されない社会を実現するためには,多職種チームによる医療的な支援と,社会の意識変革の両輪が必要である。これからも多職種連携の要として,一人ひとりの当事者が,ありのままの自分に自信を持って人生を歩めるよう,地道な支援を追求していきたい。
注1)Face Equality International(FEI):外見の違いに基づく偏見や差別の解消を目指す国際ネットワーク。https://faceequalityinternational.org/
文 献
- Changing Faces(2017)Disfigurement in the UK.
- 彦坂信ほか(2021)口唇口蓋裂患者のQOLを含めた患者報告アウトカムを計測する質問紙「CLEFT-Q」日本語版の作成.日本口蓋裂学会雑誌,46 (1); 11-17.
- 松本学(2009)口唇裂口蓋裂者の自己の意味づけの特徴.発達心理学研究,20 (3); 234-242.
- 松本学(2025)口唇口蓋裂治療チームにおける「顔を育てる」ための包括的な心理社会的支援:臨床発達心理学的,予防的観点からの提言.形成外科,68 (9); 951-956.
- Ramstad, T., et al.(1995)Psychosocial adjustment in Norwegian adults who had undergone standardised treatment of complete cleft lip and palate. I. Education, employment and marriage. Scandinavian Journal of Plastic and Reconstructive Surgery and Hand Surgery, 29 (3); 251-257.
- Speltz, M. L., et al.(1997)Early predictors of attachment in infants with cleft lip and/or palate. Child Development, 68 (1); 12-25.
- Stock, N. M., & Feragen, K. B.(2016)Psychological adjustment to cleft lip and/or palate: A narrative review of the literature. Psychology & Health, 31 (7); 777-813.
- 髙木律男ほか(2022)口唇裂・口蓋裂児に関する臨床統計的検討(2019).日本口蓋裂学会雑誌,47, 210-219.
松本 学(まつもと・まなぶ)
東北大学病院形成外科心理外来・共愛学園前橋国際大学教授・DE&I推進室長
資格:公認心理師・臨床発達心理士
専門:口唇口蓋裂の心理社会的支援,チーム医療,学生相談(主に大学生)









