私の臨床現場の魅力(37)|スモール志帆

スモール志帆(ダイハツ工業株式会社)
シンリンラボ 第37号(2026年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.37 (2026, Apr.)

1.臨床心理士を目指したきっかけ

大学卒業後,事務職の公務員として安定した職に就いたが,年齢や性別の違う職場環境や未経験の経理業務に戸惑い,精神的に辛い時期を過ごした。周囲にはうつで休職する先輩も複数おり,学生から社会人への適応の難しさとサポートの得にくさを痛感した。そういった困難を抱える人たちの支えになりたいという思いが強まったことが,臨床心理士を目指したきっかけである。大学院で専門的に学び直し,資格取得後は精神科クリニックに勤務し,その後もともと希望していた企業の心理職に転職し,現在に至っている。

2.産業領域における心理士の役割

現在は企業内の産業保健スタッフとして,チームメンバーと連携しながら従業員のメンタルヘルス対策を推進している。主な業務は,年に一度のストレスチェックの実施と集団分析結果の職場へのフィードバック,階層別や職場単位でのメンタルヘルス研修の企画・実施,職場復帰支援,個別相談の対応など多岐にわたる。特徴的なのは,個別対応だけでなく,組織全体の環境改善に向けた集団へのアプローチも求められることであり,メンタル不調者を生まない職場環境づくりに臨床心理士としての専門性を発揮している。

3.私の臨床現場の魅力

私がこの職場で特に魅力を感じていることは三つある。

1)多職種チームでの協働

本社地区の従業員の健康管理に携わる保健センターには,常勤産業医6名,臨床心理士1名,保健師16名が在籍している。メンタルヘルス対策を主務とするチームに,私は臨床心理士として在籍しているが,そのほか保健師が4名,常勤の産業医も2名おり,管理職も会社制度に詳しい方が担当している。産業領域のケース対応は時に訴訟リスクを伴うため慎重さが求められるが,いつでも相談できる環境が心強い。

2)管理職との直接対話

数百人の部下を持つ管理職の方と直接議論できることも魅力である。ストレスチェックの集団分析結果は部署の所属長にフィードバックするが,部長クラスになると多くの部下を抱えている。その分,報告時のプレッシャーも大きく,入念な準備と打ち合わせが必要になる。対話の中では,臨床心理士としては個々の精神面が気になるが,管理職は会社の状況を踏まえ,部下のモチベーション向上を望むなど視点が異なることもある。その違いを認識し,双方の視点を取り入れることで,より実効性のある全社施策の推進に繋がっている。また,大人数をまとめるマネージャーの話を聞くことは,一社員としても非常に興味深い経験である。

3)挑戦できる環境

やってみたいと思ったことに積極的に取り組める職場で,私自身は特に職場改善活動に力を入れてきた。ストレスチェックの集団分析と職場フィードバックは導入初年度から行っていたが,分析結果をもとに改善活動を体系化して実施したのはここ2年のことである。周囲のメンバーや産業医,上司の支援もあり,活動を推進できた。

近年はAI技術の進歩に伴うDX化が進むとともに,業務効率化や健康経営の強化がますます求められている。社会の変化は速く,追いつくのに必死な毎日であるが,新しい情報を取り入れ試行錯誤することは刺激的であり,産業心理職としての大きな魅力の一つだと感じている。

4.まとめ

臨床心理士として,また一人の会社員として,自己研鑽は欠かせない。変化が多い環境だからこそ,その変化を楽しむくらいの気持ちが必要である。臨床心理士を志した当初の気持ちを胸に,自分自身も常にアップデートし続け,働く人たちがつまずきを乗り越え,人生の荒波をうまく乗り切る手助けをしていきたいと考えている。

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スモール志帆(すもーる・しほ)
ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 安全健康推進室 保健センター
資格:臨床心理士,公認心理師,キャリアコンサルタント,第一種衛生管理者

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