私の臨床現場の魅力(25)心理師の専門性を活かす私設開業の新しい形──あすはな先生(学習塾)とサイラボ(児童発達支援)での心理臨床実践|宮崎圭祐

宮崎圭祐(株式会社サイクロス)
シンリンラボ 第25号(2025年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.25 (2025, Apr.)

1.私設開業の新しい形とは? 

心理師が専門性を活かして開業する形にはさまざまな可能性がある。私は,公認心理師・臨床心理士がチームで心理臨床の専門知識を基盤とした支援を提供する「株式会社サイクロス」で,学習塾「あすはな先生」の運営や,児童養護施設内で開講する出張塾などを実践している。また,親会社「株式会社クリップオン・リレーションズ」が運営する児童発達支援・放課後等デイサービス「サイラボ」にも携わり,子どもの発達支援や保護者支援を行っている。

これらはいずれも心理師のみで運営し,専門性を活かした支援をより身近な形で提供する心理臨床の新たな形である。

2.あすはな先生:学習塾での「学び方を学ぶ」支援

あすはな先生は,子どもたちの「学び方」を分析し,彼ら自身が自分に合った学び方で学び続ける力を育む学習塾である。発達検査の結果や,認知・性格・発達面の特性などを基にアセスメントを行い,オーダーメイドの学習支援を提供する。

例えば,漢字が覚えられず,自信を失っていた子がいた。アセスメントの結果,漢字を絵に関連づけると記憶しやすいと分かり,この方法を試したところ,スムーズに覚えられるようになった。「こうすればできる!」という体験の積み重ねが自信を生み,学習意欲向上にもつながった。心理師ならではの視点で子どもの学び方を分析し,最適なアプローチを提供することが特徴である。

3.サイラボ:セルフコントロールを育む独自開発の「遊び」を通じた発達支援

サイラボは,発達心理学,認知神経科学,脳科学などの知見を基に,独自開発の「遊び」を通じた子どもの発達支援を行う児童発達支援・放課後等デイサービスである。心理師が支援にあたり,子どもの行動を丁寧に観察しながら「遊び」を通じて適切な介入を行う。同席する保護者への即時フィードバック,発達相談やカウンセリングも提供する。例えば,気持ちを言葉で表現できず,行動化していた未就学児がいた。「遊び」を通してセルフコントロールの力が育まれ,行動化する前に気持ちを言葉で伝えられるようになった。また,母親も心理師との関わりを通じて,子どもとの接し方を学び,自分の気持ちを整理し,前向きに子どもと関われるようになった。セルフコントロールを育む独自開発の「遊び」を通した支援,保護者が気軽に心理師と話せる場があることが,サイラボの大きな特徴である。

4.私設開業という道を選んだ理由 

あすはな先生は,「クリップオン・リレーションズ」から派生する形で誕生した。事業開始当初,私は大学院生だったが,「これだ!」という確信とともにこの道に飛び込んだ。 当時は「発達障害」という言葉が広がり始めた時期であり,とりわけグレーゾーンと言われる子どもたちが支援の枠から漏れる現状を目の当たりにした。心理師として,こうした子どもたちに適切な学習支援を届けるためには,従来の制度や枠組みにとらわれない柔軟な仕組みが必要だと考えた。しかし,心理師が運営する学習塾はまだ一般的ではなく,職域としての認知度も低い。そのため,人材確保や専門性の維持・向上,事業の継続に必要な収益性の確保もクリアし続けるべき課題である。それでもこの道を選んだのは,心理師の専門性を生かし,必要な支援を必要な人に届けることができると信じているからだ。

5.心理師の新たな職域として 

あすはな先生や,サイラボでの実践を通じて,心理師の専門性は社会により多様な形で貢献できると実感している。心理師が積極的に人々の日常に入り込み,学習支援や発達支援のように具体的な形で専門性を発揮することで,心理臨床はより身近なものとなる。その可能性を広げるため,私はこれからもこの実践を続けていきたい。

参  照
+ 記事

宮崎 圭祐(みやざき・けいすけ)
<所属>
株式会社サイクロス 代表取締役
株式会社クリップオン・リレーションズ 執行役員
・その他
大阪公立大学/近畿大学大学院 非常勤講師
自治体カウンセリングルーム カウンセラー
<資格>
公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士
<著書>
編著:津川律子・遠藤裕乃 編『まちにとけこむ公認心理師』,第6章「公認心理師がサポートする新しい学びのカタチ」を担当

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