私の臨床現場の魅力(24)長期にわたって精神科クリニックで働くこと|斎藤真喜子

斎藤真喜子(まちどりクリニック)
シンリンラボ 第24号(2025年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.24 (2025, Mar.)

精神科クリニックに勤めて25年が経ちました。長くひとつのところに勤めていると,時代の移り変わりを感じることがあります。勤め始めた頃は,まだ統合失調症の方やいわゆるボーダーラインの方がいらっしゃいましたが,今となってはクリニックにこの病態水準の方はほとんど来られません。代わりに受診されるようになったのは発達特性や障害がベースにあり,不適応を生じておられる方です。特にここ数年は,特性のある方が初診の9割近くを占めるようになってきました。こうした状況の背景には,特性を持つ方が生きづらい時代になってきているということや,発達特性を持つお子さんを診てくれるクリニックや病院が地域にほとんどないといった社会的な構造に強く影響されているということを感じます。

1.インテーク

最初に患者様の困りごとを伺うためにインテーク(問診)を行います。当院では,インテークの時間を長く設けています。主訴,症状,病歴のみではなく,生活環境や成育歴についても詳しくお聞きします。そうすることで,患者様がどういう経緯で症状を形成せざるをえなかったのか,というストーリーが浮かび上がってきます。忙しい病院や,一人職場のクリニックでは,短く聞かざるを得ない場合も多いかと思います。しかし,当院ではインテークを丁寧にうかがうことで,これまで患者様が一人で(あるいは家族だけで)抱えてきた荷物を,一旦下す機会にしていただけたらと考えています。そして,丁寧にお話を伺うことは,おのずと正確な診断がなされる上での近道となります。

2.心理検査

発達特性による不適応が多くなってきているため,心理検査を行う必要性はますます高まってきています。特に,当院ではWISCやWAISのような知能検査であっても,数量分析だけではなく,行動分析,内容分析にも力を入れています。初心者の方はネガティブな結果を伝えることを躊躇してしまう場合もあるかと思いますが,この一見ネガティブに見える結果を丁寧に分析しお伝えすることは,これまで抱えてこられたつらさに寄り添い,“分かってもらえた”という感覚を持ってもらえるチャンスにもなります。そして,心理検査の結果から社会資源やサービスとつながることで,生涯にわたるサポートを得ることも可能となります。

3.心理面接

心理検査が終わると,必要に応じて心理面接を行います。非常に厳しい生い立ちを持った方との面接は長期にわたることがほとんどです。“お互い白髪が混じり始めましたね”と,心の中で思いながらお会いしていることもあります。長期のフォローができるというのも,クリニックのメリットであると思われます。

4.クリニック運営のための雑務

小さなクリニックで働いていますので,どんな雑務も行います。受付対応や電話対応,レセプトコンピュータの入力も行いますし,ホームページの更新や院内に掲示するポスター作成も行います。読者の皆さんの中には,そんなことまで心理が担当するのかと思われるかもしれません。しかし,このような雑務を行い,スタッフ間の信頼関係を培うことで,心理面接を支える土台が出来上がっていきます。受付スタッフが枠の管理を正確に行ってくださることや,パニックになって電話してきた患者様に,まず落ち着けるような声かけをしてくれることが,50分の心理面接を静かに支えているのです。

5.臨床的な場としてのクリニック

こうしてスタッフ間の良い人間関係ができてくると,クリニック全体が臨床的に働くようになります。そして,場が臨床的に育ってくると,受付で少し立ち話しをするだけでも,治療的に働くことがあります。このように,臨床的な場の中で色々な水準で様々な年代の患者様と関わることができる,ということがクリニックで臨床を行う醍醐味であると感じています。

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斎藤 真喜子(さいとう・まきこ)
所属:まちどりクリニック
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書
『39人の言の葉:あの時、こころに響いたのは理由がある』(共著,杏林書院,2024)

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