吉良安之(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター)
シンリンラボ 第21号(2024年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.21 (2024, Dec.)
1.学生の多様な悩みごとに関わる
こんにちの学生相談には,日々多くの学生が相談に訪れる。かつてのように,病理を抱えた少数の学生だけが利用する場ではない。さまざまな背景をもつ学生が多様な相談で来室する。所属学部の勉学に興味を持てなくなった,単位が取れず進級が難しい,といった学業面での相談,友人を作れず孤立した生活を送っているという相談,友人関係や親子関係の相談,SNS上でのトラブルに巻き込まれているという相談,卒論や修論の研究がうまくいかず指導教員に連絡を取りづらいという相談,就職活動がうまくいかず自信を失っているという相談など,数え上げるときりがない程である。
文系,理系の区別なく来室するし,年齢・学年もさまざまである。その意味で,学生相談カウンセラーは現代の大学生がどんなことに悩んでいるのか,どのようなことに関心を持って毎日の生活を送っているのか,広く知って理解できる立場にあると言えるであろう。
2.穏やかに対話を重ねる場
相談に来た学生は,困っている分,率直にカウンセラーに向き合い,自分の思っていることや感じていることを言葉にしてくれる。学生相談は,社会生活の場ではないし,社交的な場でもない。研究室のゼミでの教員や他学生との議論のような緊張感は必要とされないし,部活の先輩や後輩とのやりとりのように気を遣う必要もない。カウンセラーと対話しつつ,しかし半ば自分との対話の場である。カウンセラーは,学生が自分自身となるべく穏やかに落ち着いて向き合えるように応じていく。そのことで,学生が気持ちに余裕を取り戻すとともに,気づきのようなものが生じることも期待している。
学生とカウンセラーの年齢はある程度離れているし,立場も異なるが,その壁を越えて対話が進んでいく。世代の違いを超えてやりとりが生まれるのはこの仕事の魅力だろう。学生にとっても,大学の中にあって自分の思いをそのまま言葉にできることが保証されている,数少ない場と言えるであろう。
3.大学生という年代の魅力
人生周期の各年代には,それぞれの特性がある。そして大学生という時期にもその年代にしか見られない独特のものがある。社会的な責任をまだそれほど引き受けずにいられる大らかさや素直さを持っている一方で,自分の内外に生じることをきわめて敏感に感じ取って揺れてしまいがちな時期のように思う。外からのそれほど大きくない刺激で,右に揺れたり左に揺れたりして,心に変動が生じやすい。バランスがよくないとも言えるが,感じやすさは優れた特性でもある。
この感じやすさのゆえか,一つの経験で大きく変化成長する学生もいる。それまで何度も途中で挫折していたのが,何らかの自信を得ると,それまでの壁を乗り越えて進む力を発揮することがある。こちらはそれに驚かされるほどである。カウンセラーとして,「きっとこれは無理だろう」と先取りして限界を設定してしまうのではなく,いつも可能性を念頭においておく必要がある。感じやすさは成長可能性とも言えるようだ。
4.教職員との連携による連帯感
学生相談においては,学内の教員や職員と連携して学生に関わることは珍しくない。学生の学業面や生活面での問題に対して,教員による指導や配慮,事務職員による支援が必要になり,連絡をとったり,合同で面談したりすることがある。こういった共同作業を行なっていると,教職員の方々と役割を分担しながら,共通の目標に向けて苦労しているという独特の連帯感が生まれやすい。そしてお互いの間に信頼感のようなものが育ってくる。
このような人間関係においては,社会的な地位や立場を前提にした人間関係とは違って,率直なやりとりがしやすい。加えて,教職員との連携はカウンセラーとしての大学内での所属感,居場所感を確実なものにすることにもつながる。職場が自分の棲む場所として身近なものに感じられ,自分に落ち着きをもたらすと言えるだろう。
吉良 安之(きら・やすゆき)
所属:九州大学キャンパスライフ・健康支援センター
(常勤職を退職後,現在は非常勤カウンセラー)
資格:公認心理師・臨床心理士・大学カウンセラー
主な著書
『学生相談の広がりと深まり』(共編著,花書院,2021)
『カウンセリング実践の土台づくり』(岩崎学術出版社,2015)
『セラピスト・フォーカシング』(岩崎学術出版社,2010)
『フォーカシングの原点と臨床的展開』(共著,岩崎学術出版社,2009)
『主体感覚とその賦活化』(九州大学出版会,2002)