西田泰子(常葉大学短期大学部)
シンリンラボ 第19号(2024年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.19 (2024, Oct.)
1.児童養護施設とは
全国に610カ所(令和4年3月末)ある児童養護施設は児童福祉法に「保護者のない児童(中略),虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護し,あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする」と規定されている児童福祉施設で,児童相談所の措置により入所が決定され,措置費(公費)により運営されている。
児童養護施設は「社会的養護の課題と将来像」(厚生労働省,2011)により①小規模化と施設機能の地域分散化による家庭的養護の推進,②本体施設の高機能化が将来像として示され,どの施設もそれに向かって体制を整える過程にあり,職員配置強化策の一つとして心理療法担当職員(以下施設心理職)雇用への措置費加算がある。
2.施設心理職の仕事
以下は筆者の住む県内限定の話だが,大都市圏以外では本県と似た状況にあるのではないだろうか。県内の児童養護施設では,施設心理職の配置人数,仕事内容,勤務形態等は各々違っている。筆者の関与しているある児童養護施設には施設心理職が2名おり,必要な子どもへの個別心理面接,グループでのSSTや感覚遊びなど子どもへの直接的な心理支援のほか,嘱託医ケースカンファレンスの運営,各種会議への出席などを行っている。変則勤務で週4日はユニットでの生活支援に入り,週1日心理職としての活動を行う。
3.施設心理職の特徴
施設心理職の特徴の一つは生活の場と心理療法の場が近いことだ。担当ユニット児の心理面接は受け持たないことにしているが,それでも生活支援中の施設心理職の言動を垣間見る機会の多い環境では,施設心理職の全人的な佇まいが試される。
中学生や高校生などの高齢児は帰園時間も遅く,心理面接が夜になることが多いのも特徴だ。本来,体と心の休息に向かう時間帯での心理面接は子どもへの刺激になりすぎないように気を遣う。
定期的な心理面接が難しいこともある。施設はギリギリの職員数で支援を回している。職員の急な休みや退職等で勤務に欠員が出た場合,子どもの病気やトラブルなどでユニットの職員数を増やしたい場合などには,施設心理職の生活支援勤務が優先される。
子どもへの直接的な心理支援だけでなく,日々の申し送り会議,ユニット会議やケース検討会で心理職の視点から発言することで保育士,児童指導員,看護師,栄養士,調理員,事務員などで構成する多職種チームの子ども理解の幅が広がり,職員の心に余裕が生じる。その結果,子どもへの支援に厚みが出ると同時に職員の情緒的消耗感の防止にも一役買えるのではないだろうか。
一方,本県では公認心理師や臨床心理士等の資格を持つ施設心理職は少ない。1人職場ではピアスーパービジョンが難しい。児童養護施設での心理臨床実践はまだ歴史が浅く,スーパーバイズできる人材が少ないなどの課題もある。
4.子どもの成長を他職種と共有する喜び
だが児童養護施設での心理臨床は大変魅力のある領域である。多動性・衝動性が目立つ小学3年生に対して“お邪魔虫”をやっつけようと外在化の手法を用いて個別面接をしていたが,ある時その子が「(本当は)お邪魔虫(のせい)じゃなくて自分(でコントロールすること)だと思う」(()内は筆者の理解)と呟いた。いつも注意をされると責任を自分の外に向け怒り出すその子のその言葉を施設心理職がユニット会議で報告すると,そこにいた職員全員がその子の成長に驚き,自分のことのように喜ぶ。生活を共にするからこそ,子どもの小さな変化の端緒を捉えられ,他職種の仲間と共に喜びあえるのは施設心理職冥利に尽きる。
文 献
- 社会的養護の課題と将来像 児童養護施設等の社会的養護の課題に関する検討委員会・社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会とりまとめ 平成23年7月(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/8aba23f3-abb8-4f95-8202-f0fd487fbe16/59337c69/20230401_policies_shakaiteki-yougo_32.pdf 2024年10月16日閲覧)
- こども家庭庁支援局家庭福祉課(2024)社会的養育の推進に向けて 令和6年4月(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/8aba23f3-abb8-4f95-8202-f0fd487fbe16/bdf05ead/20240329_policies_shakaiteki-yougo_88.pdf 2024年10月16日閲覧)
静岡県心理職として児童相談所,児童心理治療施設等に勤務。退職後,常葉大学短期大学部を経て現在はフリーで治療的アセスメント・アジアパシフィックセンターセラピスト,小児科心理士,児童養護施設スーパーバイザー,常葉大学短期大学部非常勤講師など。公認心理師,臨床心理士。
「興奮しやすい子どもには愛着とトラウマの問題があるのかも」(共著,遠見書房)
「EMP早期記憶回想法マニュアル」(共著,金剛出版)