みんなで学ぶ行動アディクションへの認知行動療法:ギャンブルや浪費から盗撮・万引きまで(12)行動アディクションを手放す:買い物編|浅見祐香・神村栄一


浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)

シンリンラボ 第39号(2026年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.39 (2026, Jun.)

はじめに

物質アディクションとは異なり,薬理効果がない行動アディクションにおいては,ご本人のパーソナリティとご本人を取り巻く環境との相互作用の影響が相対的に大きくなります。たとえば,うつ病や他の依存症などの併発疾患を抱えている方やボーダーラインパーソナリティ症を中心とするパーソナリティの偏りが大きい方,あるいは,子どものときに虐待や家庭の不和などを体験している方もおられます。行動アディクションにはまる背景に,このような生きづらさを抱えている場合には,行動をやめる,減らすことのみではなく,背景に抱える生きづらさを和らげる支援を組み合わせることも大切になります。

今回は,収入以上の買い物を繰り返してしまう買い物のアディクションに加えて,摂食症を併発しているPさん(20代女性)と,ボーダーラインパーソナリティ症の傾向を有するQさん(40代女性)のケースについて解説していきます(※いずれも複数の実在するモデルから創作した架空事例)。

ケース1「買い物と過食が支えでした」

Pさん(20代女性)は高校生の頃から過度なダイエットを始め,大学進学後は過食嘔吐をするようになりました。一人暮らしを始めると過食嘔吐の頻度が増え,友人と外出することもなくなり,洋服や雑貨などのネットショッピングだけが楽しみとなりました。セール品を見ると,「これを逃したらもったいない」,「私のものにしたい」という気持ちが強まり,購入してしまいます。購入した直後の満足感や安心感はとても強かったですが,荷物が家に届くころにはたいして興味がわかず,段ボールが部屋中に積まれていきました。

出費は収入の倍以上であり,リボ払いの限度額に達した後は,別のクレジットカードを作って買い物を続けていました。月末に支払いの請求が来ると,想像以上の金額に驚き,お金が無くなる不安に苛まれました。支払いが追い付かなくなり,母親にお金を貸してもらうようお願いしたところ,肩代わりの条件に病院へ通うことになりました。
対応①:モニタリングから始める

学校でも職場でも,人に嫌われないように,いつも周囲をうかがっていたというPさん。「頼りにされると断れないので,残業をしないとこなせない仕事量でした。いつも帰宅するとぐったりしていました」と振り返ります。ネットショッピングや過食をしているときだけは,嫌なことを考えずに済み,ぽっかり空いた穴が埋まるような気持ちになっていました。

買い物や過食については,違法な行為に当たる行動アディクションとは異なり,必ずしも0(ゼロ)にする必要はありません。集団療法に参加してみると,セラピストから,買い物については購入品と値段を,過食については食べたものと嘔吐の有無を記録すること(モニタリング)を勧められました。「いきなりやめろと言われなくてほっとする一方で,記録するだけで意味があるかは半信半疑でした」。

記録を続けてみると,職場での仕事量が多いときや母親と口論をした後,買い物の金額や過食の量が多くなることがわかってきました。どちらも0(ゼロ)にするのではなく,段階的に目標を立てて,徐々に減らしていくことにしました。まずは,借金の問題が深刻であったため,ネットショッピングから減らしていくことにして,カートに入れてもすぐに購入するのではなく一日空けるようにしていきました。

また,職場に相談して休職することになりました。日中は,クリニックや自助グループに通ったり,スポーツジムで体を動かしたりしました。段階的に減らしていくことを目標にしていましたが,買い物や過食をするたびに罪悪感や自己嫌悪でいっぱいになっていました。

セラピストからは,「回数が減りましたね」,「新しい工夫にチャレンジしたのですね」などと,ねぎらいや称賛の言葉をかけられました。「はじめは,『何の成果も出ていないのに……』と思えて素直に受け取れませんでした。しかし,毎回がんばりをほめられているうちに慣れてきたのか,『自分って結構頑張っているのかも』と思うようになり,通院が楽しみになっていきました」。

対応②:支えてくれる仲間の存在

Pさんの母親は障害を抱える兄の世話で忙しく,父親は仕事で家を留守にしがちでした。「母親はいつも疲れた顔をしており,少しでも元気になってほしくて,愚痴を聞いたり家のことを手伝ったりしていました。家の中だけではなく家の外でも,人の顔色をうかがってしまい,自分の気持ちは二の次でした」。

母親は,Pさんに対して「何でも話せる相手」と表現しています。Pさんは,母親から不倫相手との関係について相談されたときのことを,「母親に頼られてうれしかったですが,本当は聞きたくなくて……。もっと自分のことを見てほしかったです。買い物や過食だけは自分を傷つけない存在でした」と振り返ります。

買い物や過食について,母親から「やめなさい」と言われると「今さら母親面しないで」とイライラしますが,何も言われないと「どうでもよくなったのかな」と悲しくなりました。買い物と食事の記録を,Pさんは母親も見られるように共有していましたが,「コメントをくれたのは初めの1か月だけで,その後は見ているのかもわかりません」と語られました。

自助グループに参加してみると,自分より年上の女性も多く参加していました。「大人になってこんなことを言うのはおかしいけれど……」などと前置きしながら,母親への不満やさみしい気持ちを明かすと,ほかの参加者はうなずきながら,「さみしかったね」,「よくがんばったね」などと言葉をかけてくれました。

さまざまな背景を持つ仲間同士で心の内を語り合う中で,ほかの参加者からは,母親としての後悔や葛藤などが語られることもありました。Pさんは,「だんだんと,母親も自分と同じ人間なのかもしれない……」と思うようになったと言います。

「自分で自分のことを認めてあげることができなくて,母親にその役割を求め続けていました。でも,病気をきっかけに,自分の気持ちを素直に話せる場ができました。ここに来れば話を聞いてもらえると思うと,一人の夜もやり過ごせることが増えました」。

ケース2「わかってくれない周りのせいにしていました」

Qさん(50代女性)は昔から買い物が好きで,デパートで買い物をするときの特別感や,ブランド品などを友人にうらやましがられることが快感でした。結婚後は仕事を辞めて,家事や育児に専念していましたが,子どもが学校へ通うようになると自分の時間ができて,買い物に出かけることが増えました。毎月数十万円を買い物に費やすことに夫が苦言を呈してからは,夫婦仲は悪化しました。「娘は私に嘘ばかりついて,私のものを勝手に使います。そのことを叱ると,夫からは叱りすぎだととがめられて,娘と顔を合わせるのも嫌で仕方ありません」。

同世代のインフルエンサーのSNSを見ると,「自分も同じものを持ちたい」と買わずにはいられなくなり,デパートで店員から特別扱いされると夫や娘のことを忘れて気分がよくなります。その一方で,数回使っただけで箱に入れられたままの商品が部屋の中にあふれていました。消費者金融からの督促状を見つけた夫に連れられて病院を受診することになりました。
対応①:一貫したかかわり

医師の診察を受けたQさんは,買い物のアディクションを対象とした集団療法に参加することを勧められました。「毎週参加することは難しい」,「ほかの人がいると話せないかもしれない」などと不満や不安な気持ちが語られたため,まずは見学することになりました。

集団療法を見学していると,セラピストは参加者の話したことを批判することなく受けとめながら,買い物を減らすためにできることを一緒に考えていました。プログラム終盤,セラピストから「今日は見学,お疲れさまでした。参加しての感想など,もし何かお話しいただけることがあるようでしたらお願いします」と声をかけられました。

プログラムの中では,自分と似たような経験を持つ人がいることがわかりました。夫や娘との確執について話し始めると,どんどん言葉があふれてきました。「苦しい気持ちを抱えながらがんばられてきたのですね」と言われると,涙がにじみました。

その後,集団療法に参加し始めると,毎回,「1週間,無駄な買い物をせずに過ごせました」と述べていたQさんでしたが,実際には多額の買い物を続けていました。当時について,「買い物を続けていると話したら失望されるかもしれないし,もしかしたら夫に伝えられてしまうかもしれないと思うと,本当のことは話せませんでした」と振り返ります。

本音を話しにくいと感じているQさんの様子に気づいたセラピストは,参加していることそのものに対して「頑張って来ていただけてうれしいです」などとねぎらいの言葉をかける一方で,買い物に関する報告に対しては「わかりました」とうなずくのみでした。ほかの参加者から買い物の危険に気づいたという報告が出ると,「話してくれてありがとうございます」,「危険によく気がつかれましたね」などと賞賛やねぎらいの言葉をかけるとともに,行動を振り返りながら,できていたところを丁寧に拾い上げていました。

当初,Qさんは,「私の方がよい報告をしているはずなのに,どうして失敗した別の人ばかりほめるのだろう」と疑問でした。納得いかない様子に気がついたセラピストからは,「スリップを防ぐためには,自分にとってのリスクについて自覚的になり,対策を練ることが大切です。危険な状況に気づけるということは,回復に向かうために重要な取り組みと言えます」という説明がありました。

Qさんは徐々に,自身の買い物について話してみたところ,買い物に関するセラピストからのフィードバックが増えていきました。集団療法に通い続ける中で,買い物は段々と減り,買ってしまったけれど返品に行くことができた,などという危険に気づいて動けることが増えていきました。

対応②:満たされなさと向き合う

ある日,Qさんから,主治医との関係について,「がんばっているのに,まだまだ危ないと言われました」と憤りが語られました。「こんな気持ちのままで先生には会えません」というQさんでしたが,ほかの参加者からは,「Qさんのためを思って言ってくれたのかも」,「先生も言いすぎてしまったと悩んでいるかも」などとさまざまなとらえ方が語られました。

主治医の先生とのやり取りを振り返ると,不満の言葉の背景には「分かってほしいのにわかってもらえない」寂しさがあることが見えてきました。セラピストから,「頼りにしている先生だからこそ,頑張りを認めてもらえていないように感じて寂しく思えたのですね」と言われると,少し驚きながら「そうか……。私,寂しかったのかも……」と考え込む様子が見られました。

セラピストとほかの参加者とともに,自分の気持ちをどのように伝えたらよいかアイデアを出し合い,次回の診察では,突き放されたように感じて辛かったことを伝えてみました。主治医からは,「励ますつもりだったけれど,傷つけてしまったのですね。ごめんなさい」と言われ,勇気を出せたこと,見放されていないという安堵が入り混じって涙が流れました。

「なかなか人との関係を継続することができません。親とは疎遠ですし,学生時代の友人とも連絡を取っていません。仲が深まるほど,『分かってもらえない』と感じると,かっとなってしまいます。怒りの背景にある悲しみや不安などの気持ちを一緒に探してもらってはじめて,自分のことが分かったような感じがしました」。

その後,集中内観注1)に参加して,1週間泊まり込みで,家族や恩師らに対する過去の自分の言動について振り返ったことが大きな転換点になったと言います。「親や夫への感謝の気持ちがないわけではなかったけれど,表面的なものでした。私がうまくいかないのは夫や娘のせいだと思っていましたが,『自分の問題』として受け止めようと思うようになり,アディクションの問題にも向き合おうと思えるようになりました」。

注1)集中内観:1週間泊まり込みで,屏風で区切られたスペースにこもり,これまで自分との関わりが深かった家族や恩師などに対する過去の自分の言動について振り返ります。「お世話いただいたこと」,「して返せたこと」,「ご迷惑かけたこと」について,3から5年ごとに区切って省みることをして,1,2時間ごとに訪れる面接者と話をする,ということが繰り返されます。

おわりに

行動アディクションの背景に,併発疾患やパーソナリティの偏り,幼少期の体験などからくる生きづらさを抱えている方がおられます。そのような場合には,行動アディクションをやめる,減らすための対策を増やしていくことに加えて,背景にある生きづらさについても扱っていくことが大切になります。

Pさんのように同じアディクションを抱える仲間の力を借りながら前に進む方や,Qさんのように安心できる場所で内省を深めていく方など,その方に合った支援につながることが大切です。自身の生きづらさと向き合うことは容易なことではありませんし,時間をかけて根気強く取り組む必要があるかもしれません。病院やクリニック,自助グループ,依存症回復支援施設など,さまざまある支援の場の中から,安心して話ができる居場所を見つけていただくことが,新たな生活を再建していくための力になるでしょう。

文  献
  • 小林桜児(2016)人を信じられない病:信頼障害としてのアディクション.日本評論社.
  • Najavits, L. M.(2017)Recovery from trauma, addiction, or both: Strategies for finding your best self. Guilford Press.(近藤あゆみ・松本俊彦監訳,浅田仁子訳(2020)トラウマとアディクションからの回復:ベストな自分を見つけるための方法.金剛出版.)
「みんなで学ぶ行動アディクションへの認知行動療法」の連載は全12回をもって終了となります。ご愛読いただきありがとうございました。本連載は新章を加え,遠見書房にて書籍化される予定です。(シンリンラボ編集部)
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浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士

神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。

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