浅見祐香(目白大学)・神村栄一(新潟大学)
シンリンラボ 第38号(2026年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.38 (2026, May.)
はじめに
盗撮やのぞき,露出などの被害者に直接触れない非接触型,あるいは,痴漢やわいせつなどの被害者に直接触れる接触型の犯罪行為が繰り返されることがあります。性犯罪は,被害に遭われる方が存在するため,その影響は非常に深刻です。潜在化しやすく実態が把握されにくい点が課題とされており,近年では,強制性交等罪が不同意性交等罪に改められ,撮影罪が創設されるといった規制強化が進められています。
法を犯すリスクを冒してまで性的問題行動を繰り返す者のなかには,性嗜好障害という精神疾患に該当する場合があります。このような性的問題行動のアディクションの背景はさまざまですが,女性に対する偏ったとらえ方や子どもに対する性的関心,ソーシャルスキルの不足などの影響がありえます。今回は,駅で盗撮を繰り返すことを「止められなかった」というNさん(20代男性),「相手の女性も望んでいた」と電車内での痴漢行為を繰り返していたOさん(50代男性)のケースを解説していきます(※いずれも複数の実在するモデルから創作した架空事例)。
ケース1「自分では止めることができませんでした」
盗撮やのぞき行為を題材にしたポルノ動画などを好んで見ていたNさん(20代男性)は,電車通学になったことをきっかけに,好奇心からはじめて盗撮をしました。震える手で撮った写真はピントがずれていましたが,「自分にもできた」という達成感と「自分だけが知っている」という優越感が得られたと言います。徐々に頻度は増えていきましたが,「撮った写真は人に見せずに消していたし,直接触れているわけではありません。迷惑をかけていないと思っていました」と振り返ります。
毎日のように繰り返される中で,「撮らないと落ち着かないから撮る」ようになっていきました。見つかりそうになると「もうやめなければ」と我慢をしますが,2週間が限界でした。初めて捕まったときは恐怖で泣きながら謝罪をしました。両親が示談金を支払い不起訴になり,「二度としない」と心に決めて過ごしました。しかし,半年ほど経つと,また盗撮をする生活に戻ってしまいました。再び捕まって罰金刑になったことをきっかけに,大学を休学して,両親の監視のもと通院を始めました。
対応①:本当に「ストレス」のせい?
Nさんは,家庭や学校でのストレスが盗撮を繰り返してしまう原因だと思っていましたが,初回面接でセラピストから「ストレスがないときは盗撮をしなかった,ということでしょうか?」と聞かれて言葉に詰まりました。「課題は多いし,人間関係は大変だし,ストレスは強かったです。けれど,友人と遊んだり,アルバイトで褒められたりした帰り道も盗撮をしていました」。
過去の盗撮について振り返ってみると,ストレスを強く感じていても,帰り道に友人とのLINEの会話が盛り上がっていたり,好きなゲームの実況動画をオンタイムで視聴していたりするときには,盗撮をしないまま帰宅していました。「これまでに,警察や親から何度も理由を問われました。自分でもよくわからないというのが本音でしたが,『ストレス』という言葉は周りの人に納得してもらいやすかったです。使い続けるうちに自分の中で真実になってしまったのかもしれません」。
違法なアディクションの場合,周囲の人に理解してもらいやすい動機として,「ストレス」という言葉が語られやすいです。「ストレス解消」が主な維持要因であるかについては,丁寧な確認が必要と言えるでしょう。たとえば,ストレスを感じていないときにはアディクションを行っていなかったのか,ストレスを感じていたにもかかわらずアディクションを行わなかったことはあるのかどうかについて一緒に確認をしていきます。
実際に,高い頻度で繰り返される行動アディクションのなかには,まるで自動操縦のように一連の行動連鎖が形成されてしまうことがあります。一回一回の行為の理由は自分でもよくわからず,「なんとなく落ち着かないから」などと本心を語っても周囲の理解を得られないということが少なくありません。このような場合には,第5回で紹介した行動の直前の引き金を引き起こした「引き金」までさかのぼって分析をして,早めの対策を重ねて講じることが大切になります。
対応②:ソーシャルスキルを高める
小学生のときにクラスの女子から容姿をからかわれた経験があり,女性と付き合いたい気持ちはあるけれど,関係をどのように築けばよいかがわからないと語るNさん。好きなゲームが同じ男性の友人は数名いましたが,女性の友人はおらず,女性との交際や性行為の経験はありませんでした。
通院先のプログラムを受け終えた後,引き続き集団療法への参加を続けながら,自転車で通えるスーパーマーケットでアルバイトを始めました。アルバイト仲間には年齢が近い女性もいましたが,話しかけられるとうまく応答できないもどかしさがありました。集団療法の中で打ち明けたところ,ほかの参加者やセラピストが一緒に対応について考えてくれました。
若い女性から「お疲れ様です」と声をかけられたときに,目を合わせられないままうつむいてしまうというNさん。ある参加者から,「自分もシャイなのでしゃべりかけられても言葉が出ないことが多いです。なので,笑顔やお辞儀などのジェスチャーでうれしい気持ちが伝わるように気を付けています」という意見が出ると,Nさんは「それならできそうです」とうなずきながら聞いていました。
また,休憩中に雑談が始まると,スマートフォンを見ながらうつむいているというNさん。「話に入っていいですか」と聞くことや,知っている話題に自分から加わることは難しそうだと語るNさんに対して,「雑談をしている側の立場からすると,こちらの方を見てくれたり,面白い話題のときに笑ってくれたりしたら声をかけやすいです」という意見が出てきました。セラピストから,「誘われやすいふるまいはなにか,考えてみてもよいかもしれませんね」と言われて,自分の視線や表情を意識してみることにしました。
「自分から話すのが苦手なので,女性と仲良くなるのは無理だと思っていました。けれど,話しかけてもらいやすい態度を心がけたり,聞き上手を目指したりすることなら自分にもできるかもしれない,と思えました」。
ケース2「相手の女性も望んでいると思い込んでいました」
Oさん(50代男性)は,幼少期に両親が離婚しており,同居する母親は家を留守にすることが多かったと言います。中学,高校時代は同じような境遇の仲間と喧嘩や喫煙,万引きなどをしていましたが,18歳になると住み込みの仕事を始めて,非行行為からは離れていきました。職場では,先輩から怒鳴られたり殴られたりすることもありましたが,仕事終わりには,飲み屋やパチンコ店,風俗店などに連れて行ってくれました。ある日,仕事終わりにお酒を飲んだ帰り道,混雑した電車内で揺れた瞬間に女性の体に手が触れました。声を出さずにじっとしている女性を見て,そのまま下半身を触り続けました。性的な興奮を感じるとともに,自分がその場を支配しているような感覚で満たされました。
その後,お酒を飲んだ帰り道,混雑した電車内で若い女性を見つけるとそばに近寄って,痴漢行為をするようになりました。上司から言われた理不尽な言葉も,思うような結果が出ないいら立ちも消えていきます。捕まることもありましたが,運が悪かっただけと考えて繰り返していました。刑務所から出所後,回復支援施設に入所することになったため,アディクションの仲間とのミーティングに参加しながら,カウンセリングを受け始めました。
対応①:健全な問題解決スキルの獲得
Oさんは当初,「自分が痴漢行為を繰り返したのは『生まなければよかった』と口癖のように話していた母親のせいです」と語っていました。性加害の背景に,幼少期の虐待やいじめなどの被害経験が影響している方は少なくありません。そのような思いを打ち明けてくれた際には,しっかりと耳を傾けて共感しながら理解を試みていきましょう。
ただし,その被害経験が,加害行為の直接的な要因であるかについては慎重な検討が必要になります。Oさんの場合は,痴漢行為をする際に,母親の顔が浮かんだり,重なったりすることはなかったため,痴漢行為を止めるために,まずは直接的な引き金から検討していくことになりました。
Oさんは,上司から求められる結果を出すことができず,「上司が理不尽なことばかり要求するから,自分の実力が発揮できていない」といら立ちを抱えていたと言います。イライラの対処法はお酒やギャンブル,風俗店通いでしたが,お金がかかるためいつでもできるわけではありません。そのようなときは,お酒を飲んだ帰り道に混雑した電車を乗り継ぎ,痴漢行為を繰り返していたそうです。
仕事や人間関係で生じるイライラなどのネガティブな気持ちへの対処方法が少ないことが課題となったため,Oさんはセラピストとともに,問題解決療法を用いて対処方法を増やすことを試みました。同じ施設の仲間の力も借りながら,イライラが解消できる対処方法の案を探していきました。案を出す段階では,良いか悪いかを判断することなく,いかに多くの案を出せるかがポイントになります。30個ほど集まった対処方法について,①問題を解決できそうか,②自分に実現できそうか,③ほかの問題が起きないか,といった点を〇(2点),△(1点),×(0点)で評価していきました。
「同じ施設の仲間に話を聞いてもらう」,「スポーツ観戦をする」の得点が高かったため,イライラしたときにこれらの対処方法を試してみることにしました。「スポーツ観戦はもともと好きなので自分でも浮かびましたが,人に話すというのは今までにはやったことがない方法でした。少し不安もありますが,せっかく仲間に協力してもらったので試してみようと思います」。
対応②:女性に対するとらえ方の見直し
Oさんは,男らしさとは女性を支配することであると考えていました。カウンセリングにおいても,「男ならみんなそうだと思うけど」と前置きをして語る場面がしばしば見受けられました。Oさんがこれまでにいた環境では「当たり前」のものとして仲間同士で共有されていた考えが,性的問題行動を引き起こしやすくしていたと考えられます。
さらに,痴漢行為にのめりこむ過程で,接する情報はどんどん偏ってしまったと語られました。「痴漢をされたいという女性がいるという情報がネット上ではあふれていました。女性専用車両に乗っていないということは,どこかで期待しているのだと思いますし,目が合ったら触ってあげないと失礼とも思っていました」。
Oさんは,「性的同意注1)」についての説明を受けたとき,「おれが間違っていたってことか」と声を荒げてしまいました。セラピストは首を横に振りながら,「Oさんが生まれ育った環境の中での『当たり前』とは違ったかもしれませんね」と応じました。そして,「明確な拒絶がなければOKだととらえることが,Oさんにとっての性的問題行動のリスクになるのであれば,とらえ方を見直すことも対策になるかもしれないな,とも思います。いかがでしょうか」と尋ねてきました。
「明確に拒絶されなければ相手も望んでいると思っていましたが,自分を正当化させていただけなのかもしれません……」と語るOさんは,性的問題行動につながりやすいとらえ方について整理するとともに,ほかのとらえ方はないか検討を進めていきました。「この年になって,自分にとっての常識をすぐに変えられるとは思えません。ですが,自分のために,と考えてくれているセラピストの言葉だと思うと素直に受け取ることができました」。
注1)性的同意とは,内容を理解していること,断ることができる状況であること,自分の意思でOKと言うことであり,たとえ,嫌だと言っていないとしても,それは同意が得られたとは言えません。
おわりに
今回は,非接触型の盗撮を繰り返していたNさんと接触型の痴漢行為を繰り返していたOさんのケースを紹介しました。異性との関係構築に向けたソーシャルスキルが不足しているNさんと,偏ったとらえ方に基づくやり方を身につけていたOさんとでは,効果的なかかわり方も異なっていきます。
日本では性教育が十分に実施されているとは言い難く,性的同意などについて学ぶ機会は限られているのが現状です。その一方で,欧米諸国と比較しても,ポルノ動画などへのアクセスが容易であるため,偏った性的な知識が取り入れられやすい環境にあると言えるでしょう。性的問題行動のアディクションに対する支援においては,必要に応じて,性的同意などに関する心理教育や,ソーシャルスキルのトレーニングなども活用されています。そして,安全が確保される治療の枠組みが前提となりますが,女性セラピストが加わることによって,性的対象としての「モノ」ではなく対等な関係を築ける存在であることを体験的に理解できたり,女性へのとらえ方を見直すきっかけになったりすることにもつながりえます。
文 献
- 藤岡淳子(2006)性暴力の理解と治療教育.誠信書房.
- 法務省矯正局・保護局(2022)刑事施設及び保護観察所の連携を強化した性犯罪者に対する処遇プログラムの改定について(令和4年度〜).法務省.
- 斉藤章佳(2021)盗撮をやめられない男たち.扶桑社.
浅見祐香(あさみ・ゆか)
目白大学心理学部 専任講師
資格:公認心理師,臨床心理士
神村栄一(かみむら・えいいち)
新潟大学人文社会科学系教授
資格:公認心理師,臨床心理士,専門行動療法士,博士(心理学)
主な著書:『教師と支援者のための令和型不登校クイックマニュアル』(単著,ぎょうせい,2024),『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(単著,金剛出版,2019),『学校でフル活用する認知行動療法』(単著,遠見書房,2014),『認知行動療法[改訂版](放送大学教材)』(共著,NHK出版),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013)など。
学生時代から40年におよぶ心理支援の実践はすべて,行動療法がベース。「心は細部に宿る」と「エビデンスを尊び頼まず」が座右の銘。「循環論に陥らない行動の科学を基礎とし,サピエンスに関する雑ネタやライフハックなどによる解消改善を要支援の方との協働で探し出す」技術の向上をめざしている。










